scarecrow/番外編〜逃げたプレゼント 04



おめでとうって言ってくれるだけで良いって、と告げにくそうに紡がれた言葉はしかし、一つも土方の胸など打たずに。
どこか白々しいと感じてしまうのは、銀時の日ごろの行いによるものだろう。
鼻を鳴らすことで一蹴して、土方は肩を竦めた。

「誰が言うか。そんな嘘口にするくらいなら言わねェ方がマシだ」
「土方さんっ」
「大体お前は透視魔法いらなくても、欲しい奴はいる。こんなくっだらねェ魔法掛けても欲しいくらいだからなァ」
「…………………………………」

尖る声音につられて、新八は冷たい視線を近藤へ向ける。
近藤の存在さえなければおそらく情に脆い土方のこと、新八の言うことを聞いてくれたかもしれない。
全てを台無しにして杖を構えるゴリラ、もとい近藤を土方の視線から隠しながら新八は頭を下げた。
おねがいします、と真摯な声に反射、体を震わせた土方がくしゃみをする。
鼻頭を腕で擦って唸る土方へ、新八は気遣いを見せた。

「とにかく、ゴリラさ…じゃなかった近藤さんは置いといて、着替えた方がいいんじゃないですか? そのままじゃ風邪ひいちゃいますよ」
「…誰のせいだと思ってやがる」
「僕はその場にはいませんでしたよ。たまたま廊下を通った時に聞こえてきたから伝えようと思いまして。まぁ、土方さんがどうしても嫌だって言うなら無理強いはしませんが…」

銀さんアレでいいところあるんだけどな、と困ったような笑顔を向けられればさすがに怯む。
それからここしばらくのことを振り返ってみるけれど。
掛けられた迷惑が大多数を占める記憶の中、ほんの幾許か助けられたことも思い出して。
頭を振ることで考えないようにすると、土方は唇を引き結んだ。
ちらり、視界の端に掠めた神楽の姿、嫌な予感がして咄嗟に舵を切れば空を裂く音がして岩が降ってくる。
直後齎された舌打ちに眉を跳ね上げ、軌道上を追えば案の定何食わぬ顔した沖田が箒に跨っているから。

「何してんのお前ェェェェ!? うっかりすると死ぬところだったろうがァ」
「俺ァただ授業で習った魔法を練習してただけですぜ。それをアンタ、まるで俺が悪者みたいに」
「いやいや完全に悪者だろ。明らかに俺の脳天狙ってた上にこのサイズ、当たりどころが悪くなくてもぽっくり行くから。悪意の塊としか言えねェからァァァ」
「ったく、なら俺はどこで練習すればいいんでィ。的がねェとできやせんぜ」
「的俺ェ!? 他にも腐るほど的あるだろうが、木とか石とかそこら辺によォ」
「やっぱり動く的じゃねェと実践には不向きでさァ。それとも何ですか? アンタ勉強は机の上だけって思ってるタイプですかィ? ああヤダヤダ、そういうのが魔法界をダメにするって近藤さんが言ってやした。ね? 近藤さん」
「え?!」
「近藤さんも心配ですよね」
「あぁ、お妙さんと俺の恋の行方が心配だ。まず式はどこであげるかとかな」
「俺ァアンタの頭が心配だ」

魔法界よりもと言い捨てた土方が、これ以上沖田に何を言っても無駄だと肩を落として。
口中で呪文を唱えて全身を炎で包む。
上がった悲鳴は新八のものか、息を飲む声がそこかしこで聞こえてしてやったりと。
自らに注視する感覚を覚えたまま炎を煙にへ変えると、誰にも見えぬように杖を強く握り締めた。
拡散させて簡単な煙幕を作ると、突き抜けて新八の方目がけて飛ぶ。
擦れ違い様体を反転させて新八の下を通過してそのまま。
小さく声が上がるのを背中で聞いて、先ほど魔法を見舞った伊東の部屋を目指した。
颯爽と答えもなく消えてしまった土方の影、代わりに燃え残ったリボンが新八の足許に絡んでいる。
摘まんで引っ張り上げても取れず、四苦八苦しているところへ近藤や神楽が近寄ってきて。
訝しげに顔を突き合わせている面々、興味を引かれて寄って来た沖田が無理矢理引っ張れば。
破裂音がして砕けたリボン、破片が塵となって思った以上の粉塵が舞いあがった。

「わっ、な、何ですか!?」
「煙いアル」
「ぶぇっくしょい!」
「汚ェ! 誰でィ今くしゃみしたのはゴリラコノヤロー」
「ええ?! ちょ、総悟それ個人特定してるよね、ね!?」

げほごほと噎せながらの問答、近藤が魔法を使って吹き飛ばすとようやくクリアになった視界。
互いに顔を見遣って目を剥く。
それぞれ七色のペンキで塗られたようにして彩色された顔、場違いにめでたく変わったのを指さし合い、どれだけ擦っても落ちないことに行き着けば。
澄んだ空に響き渡る絶叫、素行はともかく実技はトップレベルである土方の報復の恐ろしさを知ったのだった。


伸びている伊東の上に着地し、蛙を潰したような音が足許から鳴るけれど構わず室内を突っ切る。
土方の部屋は二つ部屋を挟んだ先、廊下に出ればやはり人気はない。
じんわり伝わる温もりが一層冷えを実感させて思わず擦った腕、燃えカスを摘まみ上げて笑った。
今頃大慌てで顔を洗っているだろう4人、あれは複雑なようでいて簡単な彩色魔法で。
誰が先にそのことに気づくだろうかと考えれば、霧掛かる胸の内がすくような気がする。
まず、近藤と神楽は深く考えることをしないから戦力外、頼みの綱は沖田と新八。
沖田は中々に捻くれているから回り道して漸く結論を出すかもしれない、残された新八が一番早いだろうかと当たりをつけ、自室のノブを回せば。
焦げて使い物にならないはずの室内は既に整然と片付けられ、匂いも完全に取り去られている。
学園スタッフの底知れなさは相変わらず、深く追求するまいと決め、クローゼットを開いた。
つい取り出してしまうのは制服、惰性で着替えている内気付くのだけれど。
ふふふ、と気味の悪い笑い声が響いてうんざりと振り返る。

「人の部屋に勝手に入ってくるんじゃねェよ、桂」
「ほぅ、その様子では気付いていたか」
「つーかその白いのが部屋に入ってくんの丸見えだから、すげぇ存在感だからそれ」
「なるほど、エリザベスの魅力は底なしだからな。どこにいてもオーラが隠しきれないのか…そうか、納得だなエリザベス!!」
「いや、そんなこと一言も言ってねェけどって聞いてないだろ桂コルァ」

着替えの手を途中で止め、杖先を桂へと突きつけた。

「で? テメェも透視魔法が欲しい奴の一人か」
「すまんな。だが、俺とて引けぬ理由がある」
「…………………………………」
「理解して欲しいとは言わん。だが、エリザベスのために必要なのだ」
「……………………、…」
「もしかしてエリザベスは不治の病に掛かっているかもしれん。恐らく異変に気付いているのは俺ただ一人だろう。今まで誰も気付けなかったんだ…」

エリザベスへ視線を投げ、また土方へ戻すと桂は神妙に項垂れる。
ステッキ調の杖を手持無沙汰にくるくる回して言い淀む桂に興味を引かれ、土方が窺うような眼差しを向けた。
一応エリザベスを見るけれど、いついかなる時をもってしても表情が変わらぬ使い魔のどこに異変があるのだろうか。
念のため指摘しておけば、エリザベスは変わっている所だらけなのだけれども。
きつく握り締めた拳が震え、桂は引き絞るような声音を紡ぐ。

「勿論校医にも連れて行った、資料館で調べたりもした…だが一向に答えは出ない!!」
「桂…」
「大体の説明がこうだ“使い魔は魔物ゆえ、未知の部分が多い”と! そんなことで納得できるものか。分からないのなら調べれば良い。エリザベス、お前は俺が助けてやるからなァァァ」

ぶわ、と涙を流した桂へ、エリザベスは「桂さん!!」と書かれたプラカードを掲げた。
良いんだエリザベス、俺に任せておけ、涙声でそう語る桂の肩へエリザベスは手を置く。
ただならぬ様相に口を噤んでいた土方が、浮かんだ疑問を恐る恐る発した。

「それとこれと何の関係がある」
「あぁ、エリッ、エリザベスの病状を説明してなかったな…」
「…鼻水とか何とかしろよ」
「すまんな、ティッシュを貸してくれないか」

無言のまま親指で場所を示すと、桂は盛大な音を立てながら未だ泣き続けている。
気色悪さを隠し切れず眉間に皺を刻んだ土方へ、桂は背中越しに呟いた。

「エリザベスが…エリザベスに、いや……どう説明すれば良いのか」
「…取り敢えず落ち着け。何か病気なのか?」
「病気と言うか、そうだな。最初の異変はそう、寝言だった」
「おい、ちょっと待て。そいつ喋るのか?」
「喋るとも、エリザベスだって生きているんだから!」
「泣くなァァァ!!」
「そして第二に異臭だ。朝起きるとき、夕暮れ時…エリザベスから妙な匂いがするようになった。気付かなかった…最近では枕だけでなくエリザベス自身から異臭がするんだ、おっさんのような!! これはエリザベスの体内で何かが起こっているに違いない」
「って言うかそれ中身がおっさんだからだろうが!! アホかテメェ本気で言ってんのかそれェェェ」
「しかし! 原因の分からぬ異変もそう、透視魔法さえあれば!」
「原因おっさんンン! ちょ、おまっ、人の話聞けよゴルァ」
「それさえあればエリザベスの正体が…じゃなかった異変が何か究明出来るかもしれん」
「今正体っつっただろ、言ったよな」
「言ってません」
「言っただろ、絶対ェ言った」
「言ってません、言ったって言う方が言ったって言うんです」
「…………………………………」

詮無い問答に頭が痛くなってきた土方はこめかみを押さえて深呼吸を繰り返す。
落ち着け、桂のペースに乗ったら負けだ、人として大事なものを失うような気がする、負けるな俺。
自分に言い聞かせて桂の動向を窺えば、杖を土方に向け険しい眼差しを象った。

「土方、エリザベスのためだ、許せ!!」















−つづく−

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葦原 瑞穂