力なく、体を預けるばかりの土方は張り付く喉を嚥下して、ぜぇはぁと喘ぐ。
熱病に冒されたように唇を戦慄かせ、やっとのことで待ってくれと零した。
銀時の手の動きから逃れて身を捩るが許されずに、腰ごと膝へ抱え上げられる。
咄嗟の判断で目の前の首に縋ったは良いが、あまりの体勢に羞恥を掻き立てられ、耳まで痛い。
「…ッにすんだ…!」
「どうせなら、男同士じゃないと出来ないことしたいかなって」
「はァ?」
「だから、ここまでなら女の子にしてもらうことでしょ?」
不穏な台詞を囁いて、勃ち上がった土方のモノを扱く銀時が、ニィ、と笑った。
赤く裂けた唇から、尖った犬歯が覗いている。
片頬を引き攣らせた笑みはけして性質の良いものとは言えず、土方が警戒を露わにしたのも束の間のこと。
銀時と土方のモノを同時に握り込まれて、擦り合わされる。
二人分のぬめりを借り、粘着質な音を立てながら手のひらに包まれて揉まれる。
常識を超えた所業が信じられず、呆然としていられたのは僅かな間だった。
熱さと、浮き出た血管まで鮮明に感じさせられて、土方の理性は完全に弾け飛んでしまう。
イヤだ、ダメだ、無理だと、否定ばっかり紡ぐ唇に噛みつかれると、背筋から力が抜けて行く。
縋る手を強く引かれ、重なる屹立を宛がわれた。
その上から濡れた手のひらが押しつけられ、手のひらの甲も、どろどろに汚れて何が何だか分からない。
ただ、うねるような快感に突き動かされて土方は、うっすらと涙を浮かべた瞳を閉じた。
「も…、い、イイから、ぎんとき……」
「いいってどっち? イキたい、気持ち良いのどっち」
問われたどちらにもがくがくと頷いて、汗の浮いた首筋に鼻先を寄せる。
これ以上焦らされるくらいなら、目の前の首に噛みついてやろうと唇を開けば。
土方の手のひらごと揉み込む手が激しく上下する。
開いた唇は目的をなさずに、銀時の耳へ掠れた悲鳴を届けるしか出来ない。
飲み下すことのできない唾液が口の端を伝い、尖った顎先から落ちて弾けた。
紅潮した頬を銀時の舌がぺろりと舐め、零れ落ちそうな涙を拭う。
俺もいきそう、と上擦った声が囁かれた次の瞬間に、土方は呆気なく果てた。
一拍置いて、違う熱量の飛沫を手のひらに受け止めた刹那、吐精する銀時の唸り声にどうしてだか、全身が総毛立つような快感を覚える。
ぶるり、全身を震わせた最後の一滴まで絞るように扱かれて、土方は顔を顰めた。
全身を虚脱感が遅い、指一本動かすことすら億劫で荒い息を繰り返す。
濁る視界、必死に目を凝らそうとしても、ぼんやりして良く見えない。
「マスター、大丈夫?」
前髪を掻き上げられ、汗の浮いた額に唇が押し当てられる。
それから銀時は、眦に残る涙を舐め取り、長い指で唾液の跡を拭った。
破れそうだった心臓が漸く早鐘を打つまで戻ってきた頃、銀時が土方を抱えて転がる。
胸の上に倒れ込むと、触れた部分がじわりと温かい。
代わりに汚れた下肢を撫でる風が体温を奪うものだから、銀時の懐へ潜り込むように身動いだ。
ぽんぽん、と子供にするような軽さで頭を叩かれ、流れる空気の甘やかさに困惑する。
「やっちゃったねぇ」
前を掻き合わせ、居住まいを正してくれるのは良いけれど、汚れた下肢をどうするか。
力のない体を叱咤して漸くで膝頭を擦り合わせる。
覗き込んでくる瞳から視線を外した後、抵抗しようと試みるがしかし。
今更のような気がして、溜息と共に腕を伸ばして、湿った前髪を掴み上げた。
「…痛いんですけどォ」
「嘘つけ、痛みとかねえんだろうが」
「ちゃんとありますぅ、尻尾とか耳とか。ホラちょうどマスターが掴んでんの耳んとこの毛だから」
「耳も痛ェのか」
きらりと光った瞳を見逃さず、銀時が呆れたように片眉を持ち上げる。
「そんな嬉しそうな顔しないでくんねーかな。こんな時にさァ」
「…………………………………」
「一線越えちゃったんだって分かってなさそうだけど」
「…そんな大層なもんじゃねェだろ」
無理があると思いながらも、そう返すしかないのが歯がゆい。
確かに越えてしまったのだ。
勢いでものすごいことをしてしまったような気がする。
後悔するかもしれない、だが今この時は不思議と何の感慨も沸かなかった。
「変わらないでいられる?」
「何が変わるってんだよ。つーかテメェはちったァ変われ、使い魔らしくしてみろ」
「そっちじゃなくて、もっと色っぽい方に変わりたいなーなんて」
「ねェな」
「でも、気持ち良かったくせに」
あーんな良い声で鳴いちゃってさ、と幸せそうに言うものだから、前髪を毟る力を強める。
微塵も堪えずに、痛いなんて言うから益々腹立たしい。
これみよがしに舌を打ち、変わらねェよと繰り返す土方の頭を撫でた銀時が、間の抜けた声を上げた。
「ゴメンねマスターやっちゃった」
「しつけーな、だからそれは」
「そっちじゃなくて髪の毛、手ェ汚れてたのに触っちまった」
「…………………………………」
「俺のかマスターのか分かんねェけどべったり」
溜まってたもんね、呑気に言い放つ男に数限りない罵詈雑言が浮かんでは消える。
どれを言ってみたところで効果がないことくらい分かるくらいの時間は、共に過ごしているのだ。
額の青筋をひくつかせ、緩慢な仕草で銀時の上から身を起こすと。
「………風呂」
「先に拭くもんじゃね?」
「…テメェはそれで良いかもしんねェけどなァ、こちとら頭にとんでもねーもんつけられてんだよ…!!」
「半分は自分のもんじゃん。って言うか、惜しいよね、顔だったら何て言うか顔し…おぶっ」
今出せる限りの力で拳を繰り出し、銀時の顔面に叩き込む。
骨の軋む音がしても気にせずに、二度三度殴れば耳を垂らして情けない声を上げるものだから。
最後に新たに知った弱点の耳をきつく引っ張ってやる。
「あだだだだ! それ痛い、マジで痛い方のアレだから。すいません、ちょっ、マスターの可愛い声が聞けなくなったらぎゃあああああ」
「え、何だって? もっとやってほしいなら喜んでやってやるが」
「…マスターって基本ドMだけど俺に対してはドSの時あるよね」
「あー?」
「おうち帰ろっか」
視線を落ち着きなく彷徨わせた銀時は、散らばっている衣服を集束魔法で呼び寄せると、土方を横抱きにしてふわりと飛び上がった。
片腕に抱え、手早く己の着流しを脱ぐと土方をその中へ包み込む。
身動ぐ度に汚れた下肢を滑るぬめりが不快で、奥歯を噛み締めて堪えた。
ゆっくりと家路を辿る銀時が、突如止まって途方に暮れた笑顔を向けてくる。
「あのー、マスターお願いがあるんだけど…」
「…何だ」
歯切れ悪く言葉を止め、土方を見遣る銀時がズボン抑えててくれないかと。
表情を無くした土方へ慌てて首を振り、丸めた尻尾を矢印代わりに示した。
「急いで帰ろうとしたから、チャック全開で落ちてきちゃった」
「…………………………………」
「このままだとパンツ丸見えで飛ばなきゃなんねーんだよ。参ったね、コレ」
「……………………………」
「マスターはパンツ丸見えの男に抱えられて飛ぶ」
「抑えてりゃ良いんだろ寄越せ」
「寄越せって…、腰に抱きついてくれりゃ良いから」
「抱きつくついでに背骨折ってやろうか」
「わぉ、情熱的ィ」
肩を揺らして笑う銀時が、土方の片手を取って腰に回させる。
渋々もう片方の腕も回してズボンのヘリを掴んだ。
せめてもの意趣返しにと、汚れた手を擦りつけてやれば。
「…人の服で拭くのやめてくんない?」
「テメェは人の頭につけたじゃねーか」
「いや、アレは不可抗力だから、ワザとじゃないし、むしろワザとなら違うところにするから」
「大体もっとえげつないもん握らせただろ、仕返しくらいさせろ」
「えげつないって、もっと他の言い方あるでしょ。イチモツとか」
「そっちの方がえげつなさ増してんだけど。大体握ったの一本じゃないじゃねェか」
「じゃあイチモツ、ニモツ?」
「そんな数え方はねェ。お荷物なもんなら斬り落としてやろうか」
「まだパー子になる予定はないから遠慮します」
きっぱり断りを入れた銀時に肩を竦めて、先を急がせる。
訝しげに理由を問い質してくるのが鬱陶しくて、顰め面でもって見上げた。
関係ないだろうと切り捨てようとした視界に、ピクピクと動く耳が映る。
隠しきれない興味が現れているようで、その上いつもはやる気のない瞳がキラキラと輝いている。
一息に毒気が抜けてしまい、苦笑交じりに近藤さんとこ行くんだよと。
「え、だってまだ遊べないって言ってなかったっけ」
「表向きに会えるのは3、4日掛かるけど、いつも窓から遊びに行くんだ」
「…何か逢引きみたいじゃね? 銀さんも付いて行きます」
「何気取りだよ。つか、俺以外にも総悟とか神楽に新八も来るぞ」
毎年恒例の日々を思い出して、土方の頬が緩んだ。
親に気付かれないように家を抜け出し、食べ物を持ち寄って共に時間を過ごす。
子供だけの集まりは、人目を忍ぶこともあって一層に秘密の匂いを濃くしている。
幾つかロウソクを立てただけの足りない照明、咎める大人がいない中で過ごす怠惰な時間は何より魅力的だった。
葦原 瑞穂