scarecrow/3〜決戦のクリスマス 05



まだ何か言いたそうな神楽の口を練習の再開をすることで塞いで、音楽を流せば自然にステップを踏む。
気もそぞろながら、足を踏まれる痛みでダンスに意識を引き戻された。
曲を重ねるたびに神楽の動きも良くなって行って、次第に曲調と合うようになってくる。
教え甲斐がある生徒だ、と手を取ってリードすれば格段に滑らかになって。
少しは見られるくらいまでになっただろうか、そう思っていれば神楽の瞳が嬉しそうに輝いた。

「今の良かったでしょ、トシちゃん!!」
「あぁ、良いんじゃね?」
「後はくるくる回るタイミングだけネ」
「あ? それは俺がリードすりゃ」
「トシちゃん女心分かっていないアル。もしトシちゃん以外に申し込まれたら困るネ」
「…………………………………」
「わたしだって誘われてみたいヨ」

たくさんの女の子の中から、あえて選んでくれるその瞬間を夢見て神楽は吐息を漏らす。
何とも可愛らしい夢に土方の目許も綻んだ。

「んじゃ、誘われたときの動作からだな。後断るとき」
「断るってどうして?」
「…お前、誘ってくるのが全員好みだと思うなよ」

中にはお眼鏡に適わない男もいるだろうと暗に匂わせて人差し指を立てれば、神楽は唸って考え込む。
暫し悩んでから漸く納得したのか頷くと、教えて欲しいと言い出して。
土方は女性の仕草がどうだったかと記憶を掘り出して咳払いした。

「まずは断るとき、男がこうプロポーズしてくるから」
「プロポーズっていきなりすぎネ!!」
「…誘うときをプロポーズってんだよ。基本的には断るもんじゃねェが、踊りたくねェときは壁際によったり、疲れたとか言って相手を傷つけるようなことは言わねェことだけ覚えときゃ大丈夫だ」
「何かテキトーネ」
「平気だろ、所詮学生レベルだしよ。そんでもって受けるときは、相手が手を差し伸べてくるから」
「こんな感じで?」
「そう、こんな感じで…って何でココにいるんだァァァ!!」

にゅ、と土方と神楽の間に伸ばされた手、仰々しくお辞儀をする男の髪は銀色に輝いていて。
飛び去っていったはずの姿が目の前に現れて土方は仰け反る。
目を瞠っているのは神楽も一緒で、あんぐり口を開いたまま銀時を凝視して。
差し出された手と銀時を見比べては頻りに首を捻っていた。

「マスターと離れてるのが寂しくなっちゃって戻ってきちゃった」
「…!! またそんな適当なこと言いやが……ッ」
「適当じゃないもん、銀さん至って本気の本気だってんですよコンチクショー、お願いします」

ペコ、と頭を下げて突き出してくる手のひらを叩けば、苦笑する銀時と諫める神楽。
先ほどの会話を反芻して視線を落ち着きなく彷徨わせる土方へ、神楽はむっつり黙り込む。
銀時だけが状況を掴めぬまま頭を掻いて、叩かれた手を所在なさげに宙に留めたまま。
土方はどうしたら良いか分からず雁字搦めになって混乱した頭、ぐさぐさ刺さる神楽の視線から逃れるように銀時の手を取ってしまった。

「へ!?」
「あ?! あ、いや、これは違………ッ」

さすがに土方の行動の予測がつかなかったのか、銀時の瞳が見開かれて。
紅い瞳が大きくなるのに、こんな顔も出来るのかとぼんやり思う反面、慌てて手を離そうとするがしかし。
上から神楽の手を重ねられてしまってそれも適わない。
あははと笑った神楽が、仲良しネ、そう言うのに口ごもるけれど。

「今更気づいたのか、俺とマスターはものっそい仲良しだからね。これ、夫婦並だから」
「でもいつも喧嘩してるアル」
「あ、それアレ。喧嘩するほど仲が良いとか悪いとかそんな感じのアレだからね」
「さっきからアレアレって何だってんだコルァ!!」
「トシちゃん、わたし安心したアル」

仲良いと嬉しいと笑う神楽に曖昧な答えしか返せない自分がもどかしい。
悪戯に口を開閉させている土方へ、銀時は苦笑して取りあえずと。

「ぎゅってして良い?」
「ダメに決まってるだろォォォォ!! どこの流れから出てきたそれ!! いきなり何言ってんのお前ェェェ」
「いや、何かうん、止まらないよねラブ的なものが」
「もうラブどころか呼吸まで止めてやろうか、いや止めてほしいんだな? よし、遺言は今のうちに済ませておけ。きっちり殺してやらァ」
「呼吸まで止めるようなラブならしたいよ」
「何だその無駄にきらっきらした目!! 抉り出されたいのか腐れキツネェェェ」

激昂する土方とだるそうに言葉を紡ぐ銀時、どちらの立場につくにせよ前途多難ネと神楽は溜息を吐く。
それでも二人まとめて握る銀時の手はどこまでも暖かくて。
土方は気づいていないのだと思う、知らず知らずのうちにこうして銀時に暖められていることを。

「ニブちん、ニブチンコネ、トシちゃんは」
「はァ!? ちょ、おま、女なのに何言ってんのォォォォ」
「いやいや、合ってるよ。十四郎君はニブッニブですよ。隣に銀さんが寝てるのに全然意識してくんないんだもんなー」
「それニブイのと違うヨ。銀ちゃんに魅力がないだけネ、さっさと気づくヨロシ」
「何お前どっちの味方ァァ!? 銀さんの味方じゃねーのかコンチクショー」
「わたしはわたしの味方ヨ。お前らマダオに味方するほど中身腐れてないアル」
「「マダオって言うなァァァ」」
「息ぴったりネ」

女は強しとよく言うが、口も達者な女ってどうなのだろう。
遠い目をした土方が神楽をぼんやり見て、重く深い吐息を吐いた。
女って怖ェ、と漏らした銀時がそっと手を離すと冷たい空気に晒される。
なくなって気づく体温の心地よさに眉を顰めてしまったのはどんな感情の類なのか。
土方はひらひら手を振っては握り、感触を確かめている土方の長い睫毛が憂いに震えた。
誰にも見られることのなかった表情はすぐになりを潜め、いつもの勝気な顔を象ると神楽の後頭部を叩く。

「おら、練習再開するぞ。くだらねーことやって時間なくしたらどうすんだ、本番近いんだからよ」
「ラジャーヨ!! でもわたし足痛いアル。肉刺潰したヨ」
「早く言えよそう言うことはァァァ!! 傷治すのなんてそう難しいことじゃねェだろうがァァァ」
「そういえば銀さんと十四郎君の恋の始まりも傷治してくれたことから始まったんだよね」
「俺の不幸の始まりはそこからか、そうかそこからなのか」
「運命の出会いだよ、マスター」
「あの日に戻れたら間違いなくお前を縊り殺すのに…」

目線を逸らしつつ暗い顔をした土方へ慌てて銀時が手を伸ばした。
そんなこと言わないでよと機嫌を取ってくる顔がどうにも真剣で、土方は思わず怒ったような困ったような顔になってしまう。
突き放しきれないのは土方の罪だがしかし。
新たな表情を見つけた銀時は上機嫌に土方の手を引いてくるり、と回った。

「俺がエスコートしてあげる。マスター踊ってよ」
「あぁ!? 何でてめえと踊んなきゃ」
「だぁってマスター踊れるでしょ? 男も女も。あれだけ神楽に教えてたんだからさァ」
「ふざけんな。テメェと踊る道理が分かんねェってんだよ」
「あれ? ひょっとしてあれだけ踊ってるのにステップ分からねーの? 教えてやるとかいってるくせに実は女のパートも踊れないとか? マスターそんなんじゃ詐欺じゃね?」
「お、どれるに決まってるだろうがこのマダオがァァァ。見てろ、テメェがびっくりするくらいのステップ踏んでやらァ」
「へー、あーそう。無理しなくても良いですよー」

耳をほじって怠惰に言う銀時に土方の血圧が一気に上がる。
この手の挑発には弱い土方だ、内容が何であれ沸点は低く喧嘩を買ってしまう。
銀時は上等だコルァ、踊るぞと怒鳴る土方に、含み笑いをして目を眇めた。

「じゃあマスターが女役で踊ってね、銀さんと」
「…………………………………!!」
「さ、神楽よく見てろよー。見ることも勉強だからなー」
「了解したアル!!」

当事者を無視して神楽に声をかけた銀時を信じられないものでも見るように目を瞠った土方が、拳を握ってぶるぶると震える。
序で浮き上がった血管が切れそうに膨れて、土方は叫ぶしか出来なかった。

「テメェ嵌めやがったなー!!!!」
















−つづく−

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葦原 瑞穂