scarecrow/3〜決戦のクリスマス 06



上品な曲に乗せて踊るのは喧嘩腰のワルツ。
紳士淑女の嗜みも、土方にとっては戦いでしかなく。
こうなったら銀時の足をがつがつ踏んでやろうと心に決め、差し出された手を取る。
何故男同士でこんな目に遭わなければならないのかと自問自答したところで答えが出るはずもない。
釣り上がった眦で乱暴なステップを踏む土方に銀時は苦笑して。

「マスター神楽のためにならねーじゃん」
「うるっせぇ!! テメェなんかと踊る俺の気持ちになってみやがれ」
「ヤバイ、気になるあいつとダンスなんて、俺…心臓壊れちゃいそう」
「……何だそれは」
「え? マスターの気持ち。今考えてみろって言ったじゃん」
「テメェには皮肉も通じねェのかァァァ!!」

耳元で怒鳴りつつ回されるのに、土方は呼吸を合わせて体を委ねた。
困ったことにリードが上手い銀時の手に踊らされて、何故か女のパートを踊る羽目になった土方の気持ちも慮って欲しい。
意外に器用な土方は一度見ただけで女性のステップを覚えてしまっていて。
神楽に教えていたということもあり、ステップ自体は完璧である。
しかし、生来の性格が災いしてか、お世辞にも流麗とは言えない所作に、神楽は目を丸くした。
これでもう少しお淑やかになったら見れないこともない、と土方が知ったら狂乱しそうなことを考える。

「結構上手いね」
「…テメェこそ気持ち悪いくらいに踊れてるが、どこで覚えたんだ」
「何それ嫉妬!? これ嫉妬じゃね? もー、知りたいなら素直に言えば答えるのにー」
「テメェ殺した後に尻尾千切ってマフラーにすんぞ」
「…………………………………」
「マフラーにすんぞ」
「ちょ、おま、何二回言ってんだ!! そんでどうして目ェきらきらさせてんの!? かわい…いや、殺さないでよちょっとォォォ」
「お前の尻尾以外興味ねェ…じゃなかった死んでくれ」
「どっちにしろフォローになってないから!! オメー俺のこと尻尾でしか認識してなかったつーのかァァァ」

三拍子に合わせて踊りながら、怒鳴る掛け合いの間は絶妙なもので、片手を繋いで腰を抱かれる土方は何とか距離を置こうとして止められた。

「何か楽しそうネ」

ね、定春、と相槌を求めて問う神楽へ、腰を下ろした定春が一声吼える。
銀時と土方は互いに夢中になっているようで頻りに口論を繰り返しては、型どおりに踊って見せた。
不思議と違和感のない光景、土方がああして感情を剥き出しにすることも、銀時が宥めることも。
神楽と過ごした時間の方が格段に長いはずなのに、銀時といるのが自然に思えるとは。

「あの二人、実は仲良しヨ」
「わんっ」
「同じくらいの身長でくるくる回ると、白と黒、面白いネ」

対照的なはずなのに、どこかしっくりくる二つの体。
そんなに心配することはないのかもしれないと結論付け、神楽は練習用のヒールを脱いだ。

「あーもう勝手にするヨロシ。わたし休憩」

延々と続くやり取りに飽きた神楽がその場に倒れこみ、傷ついた足の裏を空に掲げる。
そうしたところで治るはずもないけれど、疲れた足には気持ちが良い。
定春を呼んで枕代わりにすると、神楽は暇つぶしに鼻歌を歌い始めた。
気付く由もない土方は銀時の尻尾のみを受け入れると豪語し、銀時は余りの言われように仰け反っている。
ふかふかの尻尾だけはマシだな、と言ってのける土方へ、肩を震わせた銀時が。
どういうことなのと詰め寄ってくるから、土方はそのままの意味だよと。
半ば投げやりな口調で言えば銀時は慌てて、それが面白くて小さく笑う。
すると銀時は耳を立てて嬉しそうに笑った。
何となく面白くなくて、もっと傷つけバカがと小突いて、手の甲と銀時の額が触れ合う。
いてぇよ、と拗ねた振りをする銀時を視界に納めたが最後、目の前が暗転した。

赤、鼻をつく鉄錆びの匂い、反転、黒――――――
どこまでいっても見えるものは何もない虚無の空間。
空恐ろしい空間の出口を探そうと目を凝らせば、彼方に銀色の点。
銀時が目を真紅に染めて立っている。
握り締めた木刀の先端は折れ、濡れて湿った色を表していた。
ザァ、と視界が砂嵐に包まれて見えたのは山。
見ただけでは分からない、何かがうず高く積まれた天辺に誰か座っている。
見上げる銀時、咆哮した圧力に世界が歪んだ。
途方もない魔力が放出され、世界は消し飛んで白。

「………ー、……ターってば」
「…………あ……?」
「どしたのぼーっとしちゃって。それ銀さんの癖でしょうが、大丈夫?」
「あ…あぁ、いや…」

肩を揺さぶられて我に返った土方は、今見た映像が判別し難くて呆けた顔をしている。
荒くなった呼吸、心配そうに覗き込む銀時の目の色は紅い、けれど瞬間見た瞳は真紅だった。
ちがう、そう呟いた唇を、銀時は不思議そうに見遣っていたけれど。
んー、と唇を尖らせて迫ってきた銀時を、土方は渾身の力で殴り飛ばす。

「懲りねェなテメェェェェェェ!!! 心配してたんじゃねェのかよ!!」
「や、心配だから景気づけにちゅーを…」
「アホかァァァ!!」

銀時を殴ったため痛む拳を開いて、ひらひら振った。
手の甲の刻印がうっすら光っている。
仮契約の紋章は変わることなくあるけれど、何らかの魔力を帯びているようだった。
薄紅色に発光する手の甲に夢中になっている土方、銀時はやる気のない瞳を輝かせるとその手を握り締める。

「十四郎君、俺はいつでもオッケーだからドンと来いってんだチクショー」
「……ア?」

絶対ロクなことを言わない、そう思ってはいても聞かずにはいられなくて。
はっきり言え、と尋ねたが最後、想像通りの言葉を紡がれて土方は奥歯を噛み締めて俯いた。

「銀さんなら今この場で本契約結んでも良いから。っつーか外って結構燃えね?」
「…………………………………」
「それとも空の上とかでしちゃう? アクロバティックでそれも良いんじゃねーのこれ」
「……………………」
「最初は痛いかもしんねーけどそこは愛でカバーしてくれれば良いから」
「何の話だ、手を離せこのマダオォォォォ!!」

ここのところ怒鳴りすぎて痛む喉に眉を顰めながら暴れる土方の手の甲の光が薄れる。
色をなくして刻印だけになったそれを、銀時も見ることはなかったけれど。
騒々しく過ぎた時間は、神楽の寝言によって止まるまで続いた。


* * *


「トシちゃん緊張するヨ」

クリスマス当日、チャイナ風イブニングドレスに身を包んだ神楽がぎゅ、と裾を握る。
興奮して紅潮した頬は引き攣っていて、こうしていれば年相応の少女に見えるのにと土方は苦笑した。
男女のパートナーはまずフロアで一曲踊らなければならない。
手を引いてフロアに出て行く背中を見送って、土方たちの番まであと数組。
土方は神楽に手を差し伸べると、小さな手を取る。

「散々練習したろうが。足踏まれても平気な顔してっから平気だ」
「踏まないヨ!! 大丈夫ネ、サド王子驚かせてやるんだから」
「総悟?」

何でここで沖田の名前が出てくるのか首を捻りつつ、土方たちはフロアへ出た。
歓声が耳を打つ、出だしは好調、踊り出しが上手くいけば神楽の緊張も解れて楽しそうにステップを踏む。
安堵の内にリードしながら、視界の端に苦々しい顔の沖田を見つけた。
どうやらサド丸と来ているらしく、側に誰が寄る気配もない。
幼馴染であるがゆえに分かる不機嫌、視線の先には笑う神楽がいて。
もしやと思うが、それを問い質す理由もなく。
色恋に疎い土方のことだ、問い詰めたところで悪い方へしか転ばないだろうと安易に結論付けて目線を転じた。
会場の端々で見知った顔を見つける。
近藤、桂、エリザベス、伊東や北大路までと確認して、煩いくらいに視界に入り込む銀色が足りない。

(来て、ねェのか?)

定春の姿を見つけたから、会場にいるはずの自分の使い魔は結局、一曲踊り終えても探せなかった。
気にしなければ良い、放っておけばそれで良いはずなのに。
いるべき場所にいないことが腹立たしくて、土方は神楽の手を離すと会場をうろつき始める。
そこかしこで掛けられる声と投げられる視線を薙ぎ払って、広い会場を歩くが誰も銀時を見ていないという。
会場では使い魔同士のバトル、魔法のみのバトルなど様々な対戦がお遊びで行われていて。
土方も魔法のみのバトルにエントリーするはずだったのだが、今は銀時が気にかかって仕方ない。

(これはあれだ、あいつが何か企んでるかもしれないから)

誰にするでもない言い訳を胸の内で繰り返して、土方はうろうろと彷徨っている足を止めた。
銀時を探すには足を使わなくてももっと簡単な方法がある。
契約の刻印は伊達じゃない、これは使い魔と魔法使いを繋ぐためのものだ。
だから、用があるときは呼べば良い、そうすれば必ず使い魔に伝わるのだが。

(なんだか癪だ…)

しかし、毎日毎時間鬱陶しいくらいに懐かれた姿が見つからないとなれば気になって当然だろう。
土方は意を決して簡単な呪文を紡ぐと、未だ数回しか口にしたことがない使い魔の名を呼んだ。

「銀時、テメェ今どこにいる」
















−つづく−

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葦原 瑞穂