「 真ん中ぐらいだってさ」
と、陽が言った。その手に握られたスマートフォン。今まで誰と電話をしていたのか、よく知っている。
「何時始まりだっけか?」
「昼前オープニング。多分夕方前くらいじゃねーかなって言ってた」
「凪、ここから会場までどのくらいだ?」
「四十分ってところ」
「他に見たいもんもあんだろ。じゃぁ、一時間後に出発」
「りょーかい」
「分かった」
頷いて、二人の息子は一度リビングを後にしていった。おそらく指定の時間には玄関にいるだろう。
ああ、そうだ、と知り合いに一本電話をかけていると、通話を終えると同時にリビングのドアが開いて父が入ってきた。
「 じゃぁ、また」
冷蔵庫からボトルを取り出してコップに水を一杯汲んだ父は、何気なく、テーブルを挟んで向かいの椅子に腰を下ろした。
「どこか出かけるのか? 凪人と陽が身支度してたぞ」
「ああ」
三人で出掛けることは、珍しいことではなかった。凪人と陽がとうに成人した今でも、二人は一臣と一緒に行きたいと言ってくれる。そんな彼らを、今まで色々なところに連れて行った。
この家には、妻を含めた家族とこの目の前の父が住んでいる。母は去年の暮れに転んで骨折し、入院からの施設での生活が続いていた。よくなればまた自宅に戻れるが、難しいかもしれないと母の主治医は言っていたし、一臣もそんな気がしている。
「瑠璃さんは?」
「もう出掛けた。多分、戻りは夜だろ」
まだ大学生の時分に結婚した妻とは、正直なところもう長い間仲がよろしくなかった。
公の場に出る必要があれば一臣の隣でにこやかに笑いはするが、普段は誰に何を言うでもなく、一人で好きに出かけることも多くなった。今となっては一臣の稼ぎが目当てなのかもしれない。その原因を作ったのは自分のようなものだし、それで淡々としていてくれるのであれば、それでも良いと思っていた。
「お前たちはどこに行くんだ?」
その問いに、一臣はすぐには答えなかった。父もその場の雰囲気でなんとなく聞いただけなのだろう、答えずとも、気にした様子はなかった。
煙草に火を点けて、ふうっと息を吐く。しばし無言の時が流れ、父はテーブルの上にある新聞を広げた。
「 親父。菜穂、覚えてるか」
「え?」
徐に投げかけられた問いかけに、父は新聞から視線を上げて一臣を見た。
「小河内菜穂」
「え…… あっ、ああ、菜穂さんか、ああ、うん、もちろん」
父にとって、全く予想外の名前であったはずだ。虚をつかれたような表情とほんの一瞬の沈黙の後、父ははっとして頷いた。
小河内菜穂。それは、一臣とこの目の前の父の間で、ここ二十五年ほど、一度も口にしたことはなかった名前だ。
あえて、口にしなかったのだろう。父が、「なかったことにしようとしている」ことは、ずっと分かっていた。一臣も、父とは違う理由で、同じように、あえて口にしなかった。それを今不意に耳にした父の驚きは十分に理解出来た。
「あん時、菜穂の腹ん中にいた子供がな」
「……子供?」
あの時、菜穂のお腹に一臣との子供がいたことを、知らなかったはずはない。これまた虚をつかれて思わずこんな言葉を漏らしてしまっただけなのだろう。
「そう。もう二十五になって、今、音楽関係の仕事してんだわ」
「……え?」
「最近色々あって、ちょっと連絡取ったりするようになって……、今日、そっち関係のデカいイベントがあってよ。アイツも出るんだと」
「えっ、え?」
「で、挨拶がてら凪人と陽連れて行くかってなってたところ」
煙草の火を消して、立ち上がる。先程の父と同じように、冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出してコップに注いだ。
「まぁ、親父には急に孫が一人増えたようなもんで、驚いたろうけど別にだからどうってことはない。向こうは向こうで結婚してもう苗字も違うし、その子供の認知も向こうがしてるから、当然高坂姓じゃねえ。俺も、父親だなんて胸張って公言出来るような立場じゃねえしな」
「菜穂さん、結婚したのか?」
「ああ。そうらしいな」
わざと、「そうらしい」と濁した。ここで根掘り葉掘り聞かれても面倒だし、「よく知らないけれどもどうやらそうらしい」と取れる言葉で終わらせる。
そもそも。
彼が産まれる前に、菜穂と別れてくれと泣いて土下座したのは父の方ではないか。番だから、お腹に子供がいるからと言ったのに。
もっとも、結局、決めたのは自分だし、父のせいだと言うつもりはないが。
「それで、どんな子なんだ?」
「は? どんな子?」
「孫だよ。顔とか……、写真ないか?」
さすがに少しは腹立たしく感じることを許して欲しい。
「おっ……そうだ、父さんも一緒に行っていいか?」
どこに、とは問わずとも分かった。
「別に、構やしねえけど」
構わない 、が。
「親父さ。あいつにどの面下げて会うつもりなんだ?」
「……どの面下げて、って?」
「自分がどうやって産まれてきたか、あいつは全部知ってんだよ、もう。あいつと向こうの父親に血の繋がりがないことも、親父が土下座して菜穂と別れてくれって言ったことも、俺がそれを受け入れて菜穂より瑠璃を選んだことも。そんな相手に、まさか笑顔で祖父でーすって言えるわけねえよな?」
父は視線を落として口ごもる。
「……それは、……その……、」
「ま、今日のところは大人しくやめといた方がいいと思うぜ俺は」
完全に目の前の肉親が沈黙した。一臣はわざとそれに気が付かぬふりをして、もう一本、煙草に火をつける。
それからほどなくして、陽がリビングに現れた。すっかり身支度を済ませている。なんだかんだ、一時間過ぎたか。
「親父、もう出られそ?」
「お、もうそんな時間か。凪は?」
「今来るっぽい。俺、外出ててい?」
「おう」
陽を見送ってしばらく、煙草の火を消す。リビングを出ると、ちょうど階段を下りてきた凪人とかち合った。
「あれ、陽は?」
「もう外出てる。そろそろ行くぞ」
「了解」
家を出て十分ほど走ったところで、車を停める。
「なんか手土産買ってきてくれ」
「りょーかい。何がいい?」
「任せる。若いのが好きそうなやつ」
財布から一万円を抜き出して渡せば、凪人と陽は二人で車を降り、歩道に面した菓子店に入っていった。
彼らが帰ってくるのを待ちながら、ちらとバックミラーに視線を走らせる。
家を出てからずっと、一台の車が付いてくることには気付いていた。見慣れた白い車。父の愛車だ。余程「孫」に会いたいようだ。さて、どうしたものかと思いながら、ダッシュボードから煙草を取り出す。咥えて火をつけたタイミングで、二人が戻ってきた。
「お待たせ」
「こんなんでいいかな?」
「俺が選ぶよりいいだろ。行くぞ」
世間一般で言う盆の初日だからか、道は混んでいた。予想より少し長めの時間を消費して、会場近くのコインパーキングに車を停める。どこもかしこもいっぱいで、ここも運良く見付けることが出来たほどだった。
待ち合わせの相手と出会うのも、思ったより時間を取られた。
「よう、カズ」
「ナオさん。悪いな、休みの日に呼び出して」
「いいって。どうせ暇持て余してんだし」
そう言って、直斗はからりと笑った。
家を出る前に電話をしていた相手はこの男だ。由貴が産まれたばかりの頃、見に行こうと言って一臣を病院へ連れていってくれた相手だ。だから、もしよければ、と誘うと、彼はノータイムで「おう、行くわ」と答えてくれた。
「 で? どこよ? お前と菜穂ちゃんの子」
何のために今日、ここへ来たのかはすでに直斗も知っている。 だが、どういう人で、どう会うのかはまだ伝えていなかった。
「どこで待ち合わせ?」
「ナオさん、出る方なんだよ兄貴」
「マジか、誰か当てたろ」
本日、何のイベントかと言えばやはり音楽ステージである。入口で配られたプログラムを見ながら後をついてきた。
「 で」
人混みの中をとりあえず適当に進んでしばし、陽が口を開いた。
「どーすっかな」
「向こう、有名人だしな。出番前の今、こんなとこフラフラしてるわけないか」
どうやって会うか、だ。
陽の言う通り、息子とは言え相手は有名人、しかも出番前。おまけにおそらく、この会場にいる人の多くは彼らを望んできているわけで。
奥の方に分かりやすく控え室代わりらしい囲いが見えるが、それはそれ、これはこれ。
「プロモ相手ならなー、挨拶に来ましたってその辺簡単ぽいのになー」
「チャットは?」
「今まだスマホ見られる状態なんかな?」
そんなことを言いながら、とりあえず「分かりやすくそれらしい」ものが見える方へ歩いてみる。
だが、分かりやすいと言うことは他の人にとっても「分かりやすい」わけで。出待ちらしき人の姿が増えていく。
「こりゃ、ムリめ?」
と、陽が苦笑した時、反対側の少し離れた場所を、覚えのある姿が歩いていくのが見えた。
「百瀬さん」
人混みを離れて声をかけると、『EDEN』のマネージャーである百瀬はすぐにこちらを振り向いてくれた。
「高坂さん。こんにちは。来てくださったんですか」
凪人と陽も近付いてきて頭を下げる。百瀬は陽が手にした紙袋を見て、要件を察したようだった。
「由貴、呼んできますか?」
「大丈夫ですか?」
本番前の大事な時に、との意味まで汲んでくれた百瀬は、そのうえでにこりと笑う。
「緊張なんてする子たちじゃないのでね。大丈夫ですよ」
ルークなんて今も控え室でゲームしてますから、と笑いながら、百瀬はさらに離れた場所へ三人を誘導する。ぐるりと回るかたちで、関係者以外立ち入り禁止とプレートが下げられているロープの中に招かれた。
「ここで待ってて下さいね」
そう言って彼が去りしばらく。コンテナとテントの陰から、由貴が現れた。あいも変わらず細い体にでっかいアウターを着ている。真夏仕様なので意外にもかなり風通しがいいらしい。そこまでして真夏にアウターを着なくてもよいのではと思っていたが、そこまでして真夏にアウターを着る何らかの理由があるのだろう。
「『EDEN』のクリス!?」
驚きがそのまま口から出たのだろう。誰より早く、直斗が由貴を見て声を上げた。
「かわい! え、お前と菜穂ちゃんの?」
「そうだよ。 よう。悪いな、出番前に」
「別に平気。見に行くって陽からチャットもらってたし、そしたらこっちに挨拶にも来てくれるんじゃない? ってみんなが言ってたから、……俺も、そのつもりでちょっと待ってたとこある」
そう言って、由貴は少しだけ唇を尖らせた。どうやら照れているらしい。それでも、少しずつ距離を縮めようと頑張ってくれているようだ。
「そっちは?」
「ああ、前に話したろ。シゲさんの息子の……」
「『ナオさん』?」
覚えていたか。
「よく俺だって分かったね、……ですね」
「この間、生放送で顔出ししてたろ。見たわ」
「ああ、それで……」
成程と頷く由貴に、陽が手にしていた紙袋を差し出した。
「これ、手土産。何が好きか分かんなかったから、店で一番よさそうなの買ってきた。アレルギーとかなかった?」
「ありがと。大丈夫」
「良かった。 だからまぁ、今度、またメシでも食いに行こ。兄貴の好きなもん教えて」
「うん」
こういうところは、息子ながら羨ましいたちだと思う。
さて、時間も時間なので、あまり長居をして邪魔をしてもいけない。ひとまずこの場を後にするかと思ったところで、
「あ、そうだ」
と、由貴が口を開いた。
「お父さん」
その言葉を、すぐ近くで聞いた者たちがいた。
タレントやミュージシャンばかりのこの場に些か似つかわしくないその単語と鈴の音のような声は、たやすく意識を引き付ける。
「? 今の声、クリスじゃね?」
トモの言葉に顔を見合わせる。
「お父さん?」
「って、クリスの父親か?」
「見たい!」
欲望に忠実に、コンテナの角から覗けば思った通り、トモの言葉の通りの人物がいた。
長身の男性四人と向かい合っている。二人はまだ若い。おそらく自分たちと同じくらいだろう。
「待って、まだいるでしょ」
「まだ来たばっかりだしな。お前たちのステージ見て、適当にぶらぶらしたら帰るわ。こいつらも見たいもんあるだろうし」
由貴の問に答えた、一人。もしかしてあれが「お父さん」か。
こちらに背を向けて立っているから見えづらい。もっとよく見たくて身を乗り出すと、由貴が先にこちらに気が付いた。
「あ」
ばっちり目が合ってしまい、そのまま知らぬ振りをするのも気まずいので四人で出て行く。
「ごめん、盗み見するみたいになっちゃって。お父さんって聞こえたから、気になって……」
「? いいよ別に」
何がごめんなのか分からない、と言った顔で由貴が首を傾げる。父と一緒のところを見られただけなのだから、特にどうということもないのだろうが、なんとなく。
はて、 さて。これが、彼の父か。伊織よりも背が高くて、なんというか、言うなれば「威風堂々」。なんだか、どうにも少しだけイメージが違う。いや、勝手に伊織が抱いていたイメージと言えばそれまでであるが。
確か、彼の父は。
「翻訳家……、だったよね」
こっそりと耳打ちするように言えば、由貴は少しだけ眉を顰めて、
「……伊織には、そのうちちゃんと話す」
と、言った。
「うん、分かった。待ってる」
彼がそのうち話すと言うのだから、伊織はにっこり笑ってその言葉を受け取る。
その隣で、青年が由貴と自分たちを見て首を傾げた。
「『LUKEs』と仲良いん?」
「分かんない」
「いや、そこは仲良いって言って下さいよ」
すげない由貴の言葉に、シンが割って入る。
「仲良いの? 俺たち」
「そうだと嬉しいですね」
「ふぅん」
それは、それとしてさておき。
「由貴、ええと……」
彼の隣にいる男性が父であるのは分かったが。この、二人ははたして。特に今の彼はアイドル並みの美形だ。
伊織の視線に気が付いたのか、彼はニコッと笑った。
「ども。高坂陽です」
「あ、どうも……横峯伊織です」
彼の雰囲気につられて、馬鹿正直に本名を名乗ってしまった。
「
そんな伊織に寄り添ってか、シンが同じように本名を口にする。
隣の由貴が目を丸くしていた。
「それ、本名?」
「そうですよ。ゴツいでしょ?」
「名前、一心っていうんだ」
「はい。だからこれからは俺のことも名前で呼んでくださいね」
「? なんで?」
「イオが名前で呼ばれてるの、いいなぁって思ってたんで」
由貴がシンを見上げて首を傾げた。不思議な理由だ、と思っているのがありありと分かる。
あるものを感じて、伊織はもやりとした胸の中、なんと言っていいか分からない。
「そっちがそれでいいなら、いいけど……」
彼の向こうで、「父」が苦い顔をしているのが見えた。
そんなことにも気付かず、由貴は、ああそうだ、と手にしていた紙袋から綺麗な紙に包まれたお菓子を取り出すと、伊織たち四人に一つずつ渡していく。
「いいの?」
「俺たちは六個あればいいから。あげる」
「そっか。ありがとう」
ちらり、と由貴の父を見る。こうして見ると、とんでもなく男前だ。おまけに若く見える。一体何歳なのだろう。由貴にこんなに格好いい父がいたことなど知らなかった。
「……じゃぁ、またね。今日のステージ、楽しみにしてる」
「うん。またね」
と、『LUKEs』とやらの四人組が去って少し。
思わず、呆れ混じりの溜め息が漏れる。
「お前、もう少し警戒心持てよな」
「持ってるし」
「あれで持ってるつもりか」
だとしたら、父としてははてしなく心配なのだが。ああ、ほら。今だって、何のことを言っているのか分かっていない顔。
ポーカーフェイスと言われているようだが、こうして見ていると存外感情が表に出る。それとも、表に出るのは、それだけ距離が近くなったからなのだろうか。 そうだとしたら、嬉しいのだけれど。
そう。
そう、だとしたら。
「由貴」
「? なに?」
「お前、じいちゃんに会いたいか?」
由貴がきょとんとする。
「じいちゃん、って……そっちの?」
「そう」
一臣の父、すなわち凪人と陽の祖父でもあるわけで。
「うーん……今は、まだいい」
暫く難しい顔で悩んだ後、由貴は「否」という答えを出した。
「だって、確かお母さんと別れて欲しいって言った人でしょ。そっちにも事情があったのは分かったけど、今それを全部受け入れて飲み下せるかって言われたら、まだちょっと無理」
彼の言うことはもっともだった。
言うなれば、産まれる前から、さらに言えばほどなく産まれることが分かっていて「NO」を突きつけられたようなもの。そんな相手に会いたいかと問われても難しいだろう。
「……でも、何年か経ったら自分の中でも気持ちの整理がついて、会いたいって思えるようになるのかも。だから、それまで待って」
それは、それでも由貴なりに精一杯、己の置かれた立場と向かい会おうとしている気持ちの表れだった。
一臣は彼の頭をわしわしと撫でる。由貴はそれを嫌がらなかった。
「 いた、由貴」
と、曲がり角の向こうから由貴の番が現れる。彼は一臣たちを見ると、笑顔で頭を下げた。
「こんちは。 そろそろ時間だから迎えに来たぞ」
「え……もうそんな時間?」
「そ。行けそうか?」
「うん。 あ、え、と」
由貴はアウターのポケットからビニールケースに入った手のひらサイズのカードを取り出す。
「これ、渡そうと思って呼び止めたの。今からだともう観客席、多分入れないと思うから」
「え、これもしかして関係者用のやつ?」
陽の問いに、由貴は頷いた。
「来るかなって思ってたって言ったでしょ。モモに用意してもらってたの。使わなかったなら、別にそれでもいいしって思って。五人くらいまでなら、これ一枚で入れるから。結構近い席行けるはず。よかったら、使って」
「おおー、サンキュー」
「じゃ、またね」
小さく手を振って、少しだけ急ぐように由貴は准と共に去って行った。最後に准がこちらを振り返り、会釈する。
ふう、と一臣は小さく息を吐いた。
「 だとさ。良かったな?」
唐突な、まったく要領を得ない言葉。不思議そうに瞬きをする陽たちの向こうから、そろり、と父が姿を見せた。
「あ、じいちゃん!?」
「会長!」
ばつが悪そうな表情。後をつけてきていることに一臣が気付いているとは思っていなかったのだろう。
「会長、孫に会いたくてついてきちゃった感じ?」
「なんだよじいちゃん、家からずっと付いてきてたわけ? 全然気付かなかったわ、ウケる」
そう言って笑う陽とは対照的だ。
「……いつかは会いたいって思ってくれるかもってさ。まぁ、今は難しいな」
「…………ああ、……うん」
「とりあえず、遠目にでも見られたろ。今はそれで我慢してくれよ」
父は黙って頷いた。
「いやーしかし、由貴くん、鈍感すぎてちょっと心配〜」
「あの分かりやすい矢印気付かないとかある?」
そう言って、直斗と陽が豪快に笑った。
それは、まぁ、確かに、 自分もそう思ったわけで。