scarecrow/3〜決戦のクリスマス 02



「まぁそういうな、今年の理事長対校長戦楽しみにしていたではないか」
「…そりゃ」
「何なに何の話?」

首を突っ込んできたのは、エリザベスとおやつを交換している銀時で、面倒くさいのが現れたとおもいっきり渋面を作る土方に、桂は概要を掻い摘んで話してやる。
土方は机にべったりと体を投げ出すと、ローブのポケットから取り出した紙片を桂に向かって投げつけた。
桂は片眉を上げて紙片を読み上げると、まるで告白でもしているかのような文面に苦笑を漏らして。

「目立つのも大変なものだな」
「マスターってばモテるから俺大変だよ。この間だって眼鏡踏み潰して撃退したしね」
「ほう、それは興味深いな。相手は誰だ」
「知んね。何か眼鏡。こう、人差し指でくぃって上げる感じの眼鏡」
「あぁ、伊東か」
「そうなの? どうでもいいや。俺マスター以外に興味ないし」
「それは見て分かるぞ」
「あ、やっぱし?」
「…馴染んでんなテメェ」

ぐったりと疲れた声音で呟く土方は机と懇意になっていて、頬を押し付けた格好のまま銀時を見上げればすかさず近寄る銀色の狐。
ふさふさと尻尾が揺れ、土方が抵抗しないのを良いことに隣に座って腰へ手を回す。
土方は怠惰に振り払う仕草を見せはすれど、それ以上の抵抗はない。
銀時は真紅の瞳を和らげると、宥めるべく毛並みの良い尻尾で土方の頬を撫でた。

「断っちゃいなよ、ねェ」
「当たり前だろうが」
「じゃ、何で悩んでんの?」
「断りに行くのが面倒くせェ」

それでなくても上級生のクラスになど余程の用でもない限り近寄りたくはない。
拗ねて寝返りを打つ頬を追いかけて、銀時が土方を覗き込めば。
切れ長の瞳がゆるり、動いて銀時を捉える。

「テメェ断ってこいやコラ」
「えぇ!? 何その横暴な感じ!! 銀さんだって行くのヤダよ」
「俺の使い魔なら行け。行かねェんだったらこの場で死ね」
「エェェェェェ!? ちょ、十四郎俺のこと何だと思ってんの!? 行くか死ぬかってどんだけ究極の選択なの」
「だって、こういうの嫌いなんだよ」

む、と口を尖らせた土方がきつい眼差しを投げるのに銀時は目を瞠って。
平生の冷静さはどこへやら、幼い素振りの土方に銀時はそわそわと体を揺らした。

「行ってもいいけどさァ、断りの文句俺が適当に考えるよ?」
「あー勝手にしろ」
「十四郎君は俺と付き合ってるんであなたとは行けませ」
「アホかァァァ!! 捏造した事実を言うんじゃねェェェェ」
「え、捏造じゃないよ。これからこうなったら良いなっていう妄想だよ」
「それこそ死ねェェェェ!!!」

力なく体を横たえていた土方は飛び起き、机に片足乗り上げて銀時を捻り上げる。
元気になった土方へ、銀時は嬉しそうに目を瞬かせた。
どいつもこいつも変態どもがと毒づく土方に、やる気のなさそうな銀時。
結局は諍いに持ち込まれる会話、ヒートアップする土方に対して銀時の耳がぴく、と揺れて微かな音を拾い上げる。
銀色の耳が音のする方へ傾けられ、尻尾が微か逆立って。
何か来る、と囁いたと同時、教室のドアが勢い良く開いた。

「トシちゃぁぁぁん!! お願いがあるヨ!!」

哀れ、教室から出ようとしていた生徒はドアと桟の間に挟まり、壁へめり込んでいる。
ざわざわ騒がしい室内を定春に乗ったまま突進してくる神楽に、土方は銀時を捻り上げたまま視線を流した。
剣呑な眼差しをものともせず、神楽は土方の鼻先で急停止すると定春から飛び降りて土方の袖を引く。

「トシちゃんペアもう決まっちゃった!? ならすぐ解消しろコノヤロー!! わたしとペア組むネ」
「…………………………………」
「何とか言えよチキンが!! 女の子に恥かかせるもんじゃないアル!!」
――――――…」
「早く答えないとわたしの杖が火を噴くネ!! さっさと分かったって言うヨロシ!!」
「…つーか、喋る暇ねェだろ!! 脈絡もねェんだよォォォォ。順序立てて喋れこのチャイナ娘が」

矢継ぎ早に告げられる言葉を何とか聞き取って漸くの反論、大人しく首を絞められている銀時も器用に首を傾げて神楽を見上げた。
神楽はぎゅ、と土方のローブを掴んで俯く。
ぼそぼそ何事かを呟くのだがしかし、土方の耳には聞こえない。
けれど銀時には聞こえたようで、耳を動かすと納得したように黙り込んだ。
神楽は頑固な表情でローブを握り締めたまま何も言おうとしないから、土方は溜息混じりに頷いて。

「いきなりペア解消するとか言うんじゃねェぞ」
「………!! トシちゃんっ」

パァ、と瞳を輝かせた神楽は嬉しさを全身で表現して飛び跳ねると、土方に向かって満面の笑みを向ける。

「アリガト、わたし嬉しいヨ!! これでサド丸にからかわれないですむアル!! キャッホォォォイッ」
「総悟? んでここに総悟が」
「じゃトシちゃん放課後また来るヨ!! 練習するアル」
「練習って、何だ?」
「定春!!」

呼べば意思の疎通は終えたもの同時、一声鳴いた定春に跨って神楽はまた教室から飛び出ていってしまう。
途中定春に踏まれた生徒たちが悲鳴を上げていたけれど、土方は気にすることもなく。
嵐のように来て去っていった少女の後姿を呆然と見送った。

「早まったか、俺…」
「そうかもねぇ」

のんびりした声の銀時は土方の手から逃れて小型のキツネに戻ると、欠伸を一つ漏らす。
土方は手持ち無沙汰になった手のひらを眺めながら、不穏な台詞を反芻してすっぽ抜けた声を漏らした。

「そうだ!! これで断る正式な理由が出来たじゃねェか!!」

今からでも断りに行くか、と拍手を打った土方に、銀時が肩に飛び乗った。

「マスターが行くなら俺も行く」
「あ? 断りに行くだけだぞ?」
「んーまぁ、マスターの影に使い魔アリってのは基本でしょ?」
「変な奴」

まぁまぁと宥めて銀時を乗せたまま歩き出す土方に、一連の流れを見守っていた桂が隣に控えているエリザベスを仰ぐ。
掲げられたプラカードには桂の考えを読み取ったように、随分慣れたものですね、と記述されていて。
嫌だと連呼しながらも銀時の存在に慣らされている土方がおかしくて、桂はエリザベスと顔を見合わせて笑った。


「北大路………先輩いますか」

先輩、と言うのが癪で躊躇いを見せてのち、言い切った土方に対応したクラスの生徒が北大路を呼んでくれる。
視線が集まるのを意識してゆっくりと近づいてくる男に土方は辟易と眉根を寄せて細い吐息を漏らした。
銀時は土方の首に巻かれたまま器用に耳を揺らして足音を探る。
性格が少なからず表れる歩き方に成る程と納得して。

(自信過剰タイプね)

土方にとってはさぞかし煙たいタイプだろうと思い、実際間近に寄ってきた姿を見ての確信。
北大路はこれ見よがしに後ろへ撫で付けた髪を整えると、土方の肩を抱こうと腕を伸ばした。
銀時は伸ばされた手の甲に思い切り噛み付くと、振り払われて宙に飛ばされたのをいいことに人型に戻る。

「汚ェ手でマスターに触るなってんですよこのメガネヤロー」
「な…………………ッ」
「手つきがいやらしいんだよ」
「何を根拠に」

後ろから土方を抱え込んで嘲笑う表情は北大路だけに見えるもので、人ならざるモノが持つ輝きを放つ妖しい瞳に息を飲んだ。
息詰まった北大路を珍しいものでも見るように土方がじっと眺めている。
銀時に抱き込まれるのはいつしか日常になっていて、振り払う方が疲れるのでそのままにしているのだが北大路は知る由もない。
見せ付けられているような状況に臍を噛んで唸り、返事を聞かせて欲しいと詰め寄った。

「この間の手紙を読んでくれただろうか。ここに来たということは返事だと思って良いのかな」
「…まぁ、そうですけど」

手紙なら難解な魔法なんてかけるんじゃねェよと内心切って捨てて、性格の悪さを滲ませて笑う北大路から距離をとる。

「悪いんですけど、俺にはもうペアがいるんで無理です」
「相手は誰だ?」
「聞いてどうするんですか」
「いや、今後の参考までに。俺が負けた相手が誰か知りたいだけだ」
「……先輩には関係ねェ」
「そうは言っても気になるのが」
「しつこい男は嫌われるよー。マスターもマスターで言っちゃえば? 気持ち悪いんだよって」
「あ?」
「君が口を挟むことじゃない。使い魔は黙っていないか」
「マスターと使い魔は一心同体だもんねー。羨ましいかコノヤロー」
「ふん、使い魔風情が何を言っ」
「すんません。生理的に無理」

北大路の言葉を遮り、きっぱりと言い放った土方は、冷酷な眼差しで射抜くとすぐさま踵を返した。
拒絶する背中にかける言葉も見つからず北大路は愕然と立ち尽くす。
間違いなく土方の地雷を踏んでしまったと言う自覚はあるのだが、何が原因かは分からない。
取り付く島もないのに、未練を残して伸ばした手は届くことなく止まって。
土方に引きずられるようにして歩く銀時が顔だけを振り向かせて、口元を歪めた。
馬鹿にした表情を咎めようとも動かない足が考えも止めてしまい、徒労に終わる。
北大路はおざなりな断りの言葉だけ残されて途方に暮れた。

「マスター何か怒ってる?」
「………別に」
「ふぅん?」

深くは追求してこない銀時が逆に気になって、土方はしんなりと眉を寄せる。
少なからず家庭環境が絡む話などしたところでどうにもならないし、弱みを晒すみたいで煩わしい。
逡巡する土方に銀時は、そういえばさァと思いついたように続けた。

「何で箒に乗って移動しねェの?」















−つづく−

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葦原 瑞穂