「使い魔ってのはこんなに変化するもんなのかよ」
「んー、分っかんね。個体差があるんじゃねェの?」
「理事長だってテメェのこと上級使い魔だとか言ってた。本当は何者なんだ」
「俺ァマスターの使い魔で、それ以上でも以下でもねェよ」
「…………………………………」
「だから? テメーが寒いって言ったら俺がこうして布団になってやるし、風邪だって治してやっから安心して付き合ってくださいってんだコンチクショー」
「誰が付き合うかァァァァ!!!」
ごつ、と頭を一つ殴って降りるように促す。
幾ら寒くないとは言え、居心地が悪いところにはいたくない。
銀時は拗ねて渋っていたが、それでも土方が言うならと空中を滑って行った。
「トシちゃん良いなー。定春飛べないヨ」
「あぁ、獣型だもんな」
「同じ獣型でも銀ちゃん飛べるアル。これってズルイと思うネ、定春も頑張って飛ばすアル」
地面に降り立つと同時、駆け寄ってくる神楽に土方は苦笑を返して。
キラキラ輝く瞳にどう答えていいかも分からず銀時を振り仰げば、銀時は土方を尻尾でくるんだまま欠伸をしている。
おかげで寒くはないのだが図体のでかいのに抱かれていると土方のイメージが損なわれるような気がしてならない。
銀時の尻尾から抜け出ようとすると、不満げな声が漏れた。
「定春んとこ行くなら銀さん許さねーぞ」
「別にそんなんじゃねェよ。テメェの図体がでかくて邪魔なんだよ」
「へぇそう。ならこれならいいよね」
ぽん、と軽い音を立てて銀時が変わったのは、初めて会ったときに見た姿。
手のひらに乗るくらい小さな狐に変わった銀時は土方の足から駆け上ると、無防備な肩にいついてしまう。
それから長い尻尾を揺らすと土方の首に巻きつけた。
「マフラー代わり。銀さんやっさしー」
「自分で言ってんじゃねェよ」
「でも暖かいでしょ」
「……不本意だが、な」
むっつりしながら言うのに銀時は満足そうに伸びを一つして、そのまま力を抜く。
小さな体は乗せていても負担にはならず、これならいいかと思ってしまう。
神楽は小さくなった銀時に興味津々であらゆる角度から検分していて。
暇になったらしい定春がわん、と鳴くと思いついたように手を打った。
「理事長から預かりものがあるネ。トシちゃんに渡しといてって言ってたヨ」
これ、と差し出されたのは封筒。
今朝の一件を思い出して及び腰になっていると、片目を開けた銀時が鼻を鳴らす。
耳元で大丈夫だよ、普通の手紙だ、そう言われて封を切った。
そこには一枚の書類と添え状が入っていて、毛筆で2年S組土方十四郎と書かれている。
嫌な予感がして読み進めれば、銀時の使い魔寮使用禁止の旨を告げられて叫んだ。
「俺が何をしたってんだァァァァァ!!!」
度重なる銀時の脱走は土方の監督不行き届きとなり、一層の使い魔取締りを勧告するもので。
使い魔寮に預けるのがダメなら、同じ寮で寝食を共にして見張れ、ということが硬い文章で書かれている。
そして何より追伸の部分だ。
追伸、使い魔契約の解除は認めないよ、人生最大の貧乏くじ引いたと思って頑張りな、と付け足されているではないか。
しかも、わざわざご丁寧に面倒くさいという部分を二重線で消してある。
魔法で消せとは言わないが、せめて修正液で消したって良いだろうに。
情けない面持ちで土方は同封されていた辞令に目を通した。
正式に銀時を寮に入れると明文化してあるそれをぐしゃぐしゃに破って土方が吼える。
銀時は嬉しそうに目を細めて、破かれた紙片に炎を吹き付けた。
じゅ、と燃えて落ちた灰、ついでにと銀時は何事かを呟いて。
「convoco」
途端に辺りに散らばる落ち葉ごと螺旋を描いて、土方の足元にうずたかく積まれる。
「わぁ、銀ちゃんすごいヨ!!」
「本気出せばこんなもんよ。まぁ本気になるのは10年に1回てとこだけどな」
「少ねェな!! つかこんなことできるなら先にやれよ!!」
「あーそうね、そうかもね」
「銀ちゃん寮に来るの? 一緒に遊べたら嬉しいアル」
「そりゃ無理だわ。銀さん十四郎と一緒に大人の遊びしたいから無理」
「あんまりそんなことばっかりしてると頭馬鹿になるってマミー言ってたよ」
「馬鹿になるぐらい遊びたいんだけど、マスター堅物だから銀さん困っちゃう」
「アレよ、委員長タイプは意外に押しに弱いヨ。黙って俺についてこいぐらい言うがヨロシ」
「え?! そうなんだ。じゃあ十四郎、黙って俺につ」
「死ね」
スパッと切り捨てた土方は杖を放り投げてその上に立った。
神楽が不思議そうな顔をするのに、土方は理事長に直談判する、と。
しかし神楽は首を捻ると無駄よ、そう言い捨てる。
「理事長エステ行くって言ってたネ。皺の伸びる施行法見つかったってミスト浴びてくるらしいアル」
「ミストって…、化粧落ちんじゃねーの? つーか3000歳も生きといて皺伸ばすとか意味なくね?」
「女は幾つになっても綺麗でいたいものヨ」
「…………………………………」
「ほぉ〜ありゃもう女通り越して化け物の域に達してるような気がすっけどな」
「銀ちゃん乙女心が分からないアル。そんなもじゃ毛じゃモテないヨ」
「良いよ、マスターにだけモテモテなら」
「ふっざけんじゃねェェェェ!!! どいつもコイツも俺のこと何だと思ってやがんだァァァ!!!」
「――――――!?」
「こんな適当なヤツ何で俺が面倒見なきゃなんねェんだ!! つーか貧乏くじって何だ!! 頑張りたくねェェェ」
酷い形相で飛び去っていく土方は授業のことなど露ほども考えずに。
肩に銀時を乗せたまま法定違反のスピードで、寮へと飛んだ。
残された神楽はぽかん、と口を開けたまま定春へ寄りかかって。
「トシちゃん苦労するヨ。ロクでもない男に惚れられちゃったアル。マミー言ってたよ、口と毛先の軽い男は信用ならないって。銀ちゃんどっちも当てはまるネ」
ポケットから取り出した酢昆布を噛み締めながら呟く。
定春は理解しているのかしてないのか、わん、とだけ大きく鳴いた。
* * *
授業全てをサボった土方は不貞寝を決め込もうと制服を脱ぎ捨て部屋着に着替える。
大まかなところがある学校では、土方の一人や二人いなかったところで捜索などしない。
むしろ、あの問題児だから仕方ないか、ぐらいのもので。
例のごとく動きやすい服装になると、銀時が頭の上に昇ってきた。
「何でいるんだテメェ」
「あのねぇ、一緒に飛んできたでしょ? お前俺のことマフラー代わりにしてただろーが」
「本物のマフラーなら良かったのに」
はぁ、と重い溜息を吐くのに、銀時は慌てて人型に戻ると。
「ちょ、マスターそれひどくね!? 俺だって役に立ったじゃん、落ち葉集めるときとか」
「どうせ風が吹けば飛んじまうさ、あんなもん」
「身も蓋もねェェェェ。どうしてそんなに俺が嫌いかなぁ」
「人型ならせめて女だったらな…まだマシなのに」
「な!! 銀さんだって本気出せば変われるもん。mutatio」
煙に包まれた銀時が変わったのは女、のように見えるがしかし。
ただ銀時に化粧を施しただけのオカマでしかない。
どう?と決め顔で尋ねてくるのに辟易した土方は、青筋を二つほど額に浮かべて叫んだ。
「気色悪いんだよォォォ!! アレか?! それでやる気を下げるってアビリティなのか!?」
「パー子って呼んでね」
「頭がくるくるパーマのパー子かコルァァァァ」
「天然パーマのパー子でヨロシク」
「………頭いてぇ」
本気でしてきた頭痛にこめかみを押さえて、土方は自分のベッドに倒れこむ。
当然のごとく周りのベッドに人影はない。
人の気配に敏感な土方は寝入るのに相当の時間を要するのだが、今ならすぐにでも寝られそう
だ。
放課後近藤たちと遊ぶまで一眠り、と布団にもぐりこめば。
もぞもぞと隣に擦り寄ってくる使い魔が一匹。
「……………」
「もうちょっとそっち詰めてくんね?」
「…………………………、………」
「銀さん背中出てて寒いんだけど」
ふるふると体が震える。
固く握り締めた拳と瞳孔の開いた瞳、すぅ、と一際大きく息を吸い込んだ土方に、銀時は慣れたもので耳を塞いだ。
「だから布団に入ってくんじゃねェェェェ!!」
「えー…だって暖かいもん仕方ねーじゃんか」
「一人で寝ろォォォ」
「んじゃさ、これなら?」
ぼふ、と小さな狐になった銀時が土方の頬を撫でて。
上質な刷毛で皮膚を辿られたような感覚がして、土方は目を細める。
手を伸ばせばふかふかの手触りに眠気を呼び起こされて、うっかりと欠伸を一つ漏らした。
「これ、なら…良いかも?」
癖になる手触りで小さな体を撫でてやれば、狐になった銀時は嬉しそうに尻尾を揺らす。
はたはた動くたびに微かな風が頬を擽って、規則正しく送られるそれに、土方は目蓋を半分落とした。
銀時は昼寝を決め込むことにしたらしい土方のくちびるをペロリ、と舐めて。
「良いんだ、やった」
弾んだ声を出して土方のそばに体を丸める。
土方は一瞬何をされたのかも、自分がどんな返答をしたのかも忘れて、まどろみに濁った目を開いた。
眼前にある小さな顔が土方の前でくつくつと笑いに揺れて。
しきりに首を捻る土方に、銀時は寝ないの?とだけ。
「…………………………………あれ?」
たっぷりの時間を置いての返答に、銀時は小さな手で土方の頭を叩く。
考える間も惜しんで眠りの淵に落ちていく土方に、銀時は魔法でもかけるようにゆっくりとおやすみと囁いた。
眠りの浅い土方が触っても起きないほどの深くまで落ちたとき、銀時は元のサイズに戻って。
健やかな寝息を立てて眠る土方を腕の中へ閉じ込めると。
「早く諦めて俺のもんになれば良いのに」
一筆で描いたように綺麗な眦にくちびるを寄せる。
どうせ起きたらまた、朝と同じように怒声を上げることは分かっているけれど。
せめて今くらいは悪戯してもいいかな、と不埒に微笑んだ銀時を見咎める者は誰もいなかった。
そうして毎朝、同じ問答を繰り返して過ごす懲りない二人。
主導権を握っているはずのマスターが、上手く丸め込まれた気がしないでもない冬の一幕。
葦原 瑞穂