scarecrow/2〜冬の攻防戦 03



暴れれば暴れるほど周囲の視線が厳しくなってくる。
この間講堂で起こったことはいつしか全生徒が知っていて、土方と銀時が絡んでいればそれだけで一つの噂となった。
ということはだ、今のこの状況は非常にまずいのではないかと冷や汗を掻いている内に教室に辿り着いてしまう。
抱えられている間中ずっと怒鳴っていたせいで痛む喉を押さえながら、土方は疲れる登校を終えた。

「土方、おはよう」
「桂、それにエリザベスも…はよ」
「疲れているな」
「聞かねェでくれ」

隣に腰掛けて机に突っ伏せば、銀時が無理矢理詰めてこようとするから、肘鉄で追い払う。
邪険に扱う仕草に桂は苦い顔をして土方を嗜めた。

「そんなに嫌わなくても良いだろう」
「あ? テメェに関係あんのかよ」
「使い魔と魔法使いは信頼関係が全てだぞ。そんな扱いをするものではない。現に俺とエリザベスは既に固い絆で結ばれているから見ろ、仲が良い」
「いや、羨ましくねェし」
「銀さんはかなり羨ましいよコンチクショー見せ付けてんのかそれ、見せ付けてんのかコラ」
「テメェにも関係ねェだろうが!!」

話に口を挟む銀時を押し遣ろうとすれば、桂が銀時を厭う理由を聞いてくるので、仕方無しに口を開く。

「テメェんとこのエリザベスは言うこと聞くだろ?」
「あぁ、最近ではこちらの考えていることを見透かすように意思の疎通が出来るぞ」
「…それってただ長く一緒にいたからじゃなくて、元から結構命令聞くだろ。それが普通なんだ。でもコイツはなァ」
「聞かないのか?」
「なんてもんじゃねェんだよ。逆らうんだ。こっちの命令聞いた試しがねェよ」

ぐぐぐ、と渾身の力で押すも、それ以上に擦り寄ってくるのに諦めて、土方は桂の側に寄った。
座るには充分なスペースが空いているというのに、土方にぴったりくっついてくる銀時は嬉しそうに尻尾を振ると、手持ち無沙汰なエリザベスに話しかけている。
土方は聞いているくせしてよ、と呟いて桂に愚痴を零した。
弱音を吐かない土方にしてみれば珍しいと、桂は僅かに目を瞠るがすぐに取り直して土方の話を聞いてやる。
意外に面倒見が良い桂に銀時への不満を挙げ連ねて、土方は漸くほっと息を吐いた。
廊下に比べて格段に暖かい教室の空気、ローブを脱ぐとさすがに肌寒く感じるがそれもすぐ消え去るだろう。
土方は着崩した制服になると、杖を一振りしてローブを折り畳みロッカーへと飛ばした。
横着をするな、との小言に曖昧な返事を返して、土方は冷たいままの指先を擦り合わせる。

「毎日毎日寒そうだな。せめて手袋でもしたらどうだ」
「杖降るのに邪魔だから仕方ねェだろ」
「じゃあマフラーとか」
「…それくらいなら良いかもしんねェけどなぁ」

歯切れ悪く返事をされるのに、訝しく思った桂が言葉を引き継ぎ、けどなんだ、と首を傾げた。
土方は教室を見渡すと、それぞれの首に巻かれたマフラーの色を見てげんなり項垂れる。
たまたま教室に入ってきた志村妙のマフラーを見遣って、土方は辟易と答えた。

「色がピンクって有り得ねェだろ」
「なんだそんなことか。どうせみんな同じなのだ。気にすることもあるまい」
「いや、だっておま、ピンクで良いのかよ」
「仕方ないだろう、それが指定なのだから」
「…………………………………」

全寮制である魔法学校は特性によって4つの寮に分けられている。
それぞれにイメージカラーがあるのだが、赤・青・緑ときて何故かピンクの内土方たちの寮は女子人気No.1の色だった。
確かに女子がピンク色のマフラーをしていれば良い。
だがしかし寮生にはひょろいのからむさいのまで幅広い男子がいるのだ、その辺のところをどうして学校側は考えてくれなかったのだろう。

「せめて赤なら耐えられんのによ…」
「慣れればたいしたことあるまい」
「テメーは良くそんなマフラーしてこれるな」

げんなりとした口調で土方が指すのは桂のマフラーで。
暖かいとは言っても古い校舎の事、上着はなくても平気だが首周りが寒いと桂はマフラーを巻いている。
しかも律儀にピンク色のそれをだ。
土方は目を逸らしつつ、そんなのするくらいなら我慢すると小さく呟き冷たい手の甲を自分の頬に当てる。
幾ばくかマシになるような気がしてそうしていれば、銀時が下から覗き込んできて仰け反った。

「な、何だよ!!」
「手ェ握ってもい? 俺の手暖かいから、マスターに分けてあげても良いよ」
「いらねェ」

キッパリ拒否した土方に、銀時はめげず手を伸ばしてきては叩かれている。
桂は毎度おなじみになってしまった光景を苦笑して見遣ると、紙片を土方に差し出した。
銀時の顔が歪むほど強く片手で押し遣りながら受け取ったそれを開くと、真っ白な空間が広がるばかりで。
心底面倒くさそうに表裏と眺めていれば、銀時が横から紙を掻っ攫ってしまう。
抗議しようとした土方を片手で制すと、紙片を鼻先に近づけてくん、と匂いを嗅いだ。

「簡単な魔法の匂いがする。大きな害はねェみてーだけど…開ける?」
「開けるって…」
「こん中メッセージ入りみてェだってこと」
「…………………………………」

匂いだけで魔法を嗅ぎ分けた銀時に土方は驚いて何も言えずに。
桂もまた、卓越した能力を前に、目を皿にして銀時を眺めている。
とうの銀時は相変わらず濁った瞳で紙片を弄ぶと、マスターと土方を呼んだ。

「どうすんの?」
「どうするって、おま………」

ちら、と桂と目を合わせて互いの思考を重ねあう。

「土方、ともかくあれは北大路先輩からの預かりものだ。解析魔法に掛けるかどうかは自分で決めろ」
「あぁ…。そうだな、一応どんな魔法が掛かってるか調べたほうが」
「必要ねェよ。土方が良いなら俺が解くけど」
「お前、そんなことが」
「良いの、いけないの? マスター?」
「…………………………………」

ねェと声を深める銀時に、そんなことが出来るものかという気持ちで頷いた。
通常正体の分からないものに対しては、解析魔法を掛けて対処法を念入りに調べなければならない。
掛かっている魔法の種類と対処法、両方とも明らかにしなければどうにもならないため、至極面倒な作業に他ならないというのに銀時は。
魔法も対処法も匂いだけで見極め、尚且つ実行するというのか。
全く未知な能力を前にして鳥肌が立つのはきっと、興味があるからだ、けして恐れているわけではない。
そう自分に言い聞かせて土方は解くように命じた。

「了解、マイマスター仰せのままに」

仰々しく言い放つと、銀時はふ、と紙片へ息を吹きつける。
瞬間、ぼぅ、と紙片の中央にアクアブルーの魔方陣が光って宙に浮かび上がった。
くるり、紙片の中の魔方陣が回転したかと思うと、焦げ付く音がして紙片は銀時の手に落ちる。
ちりちり微かな音を立てる紙片に魔方陣は描かれておらず、代わりに火で焙り出したような文字が並び連なっていて。

「はい、銀さんの言った通りでしょ? 簡単だって」
「…………………………………」

差し出された紙片を受け取った土方は、呆然と銀時を見つめた。
ただ、息を吹きつけたそれだけなのに解かれた魔法は、銀時が言うような簡単なものではない。
何度か北大路からメモを受け取ったことがあるが、そのどれもが意地の悪い魔法が幾重にも重ねられた暗号になっていて。
今回もそうであるはずだが、しかし。

「テメェ…何者だ」
「え、お前俺に興味持ち始めちゃった? やったこれ正式契約に一歩前進ってヤツじゃね? よし、じゃぁ寮に戻って一緒に頑張ろうか」
「一人で頑張りやがれェェェ!!! っていうか質問に答えろォォォォ」
「質問に答えなくていいから静かにしような、土方ー」

銀時の胸倉掴んで捻り挙げているところに掛かる声、そちらのほうに鋭い視線を投げれば担任教師が来ていて、青筋立てて杖を振り上げているのに思考が止まる。
右、左と視線を彷徨わせればクラスメイトたちはきちんと着席していて、土方だけが立ち上がっていて。
ブリキのおもちゃみたいにぎこちない動きで顔を教師に戻すと、目だけは真剣なままにっこり笑われた。

「…………………………………」
「廊下に立ってなさい…と常々言ってきたね、土方君。君は立っているだけだと反省しないようだ。なのでこの時間中庭の掃除をしてもらいたいのだが、異存はないかな?」
「…………………………………」
「土方君?」
「…………分かりました」

異論など唱えられるはずもなく、土方はローブを引っ掴んで教室を出る。
すぐに聞こえる授業開始の声に舌打ちして、土方は中庭に降りるために廊下を進んだ。
広さも歴史も無駄にある校舎を所在無く歩くと、冬の空気が頬を撫でて体温を奪う。
ぎゅ、と竦めた肩に銀時が首を傾げて寒いのと聞くから。

「当たり前だろうが。誰のせいで俺がこんなに寒い思いしてると思ってんだよ」
「俺のせい?」
「…他に誰がいる」

視線すら寄越さず言い放つ土方に、銀時は視線を床に放り投げてそれから、何も言わずについてきた。















−つづく−

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葦原 瑞穂